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SaaSは死んでいない。しかし、B2Bで勝つための旧プレイブックは終わった

原題: SaaS Isn’t Dead. But the Way You Used to Win in B2B? That’s Gone.
著者: Jason Lemkin (SaaStr)
公開日: 2026年2月
ソースURL: https://www.saastr.com/saas-isnt-dead-but-the-way-you-used-to-win-in-b2b-thats-gone/
アーカイブ日: 2026-02-25


要約

2025年半ばからSaaS株の大規模な売り圧力が続き「SaaS終わった」論が再燃しているが、著者はこれを否定する。エンタープライズソフトウェア支出は2026年に過去最高ペースで拡大している。死んだのはSaaSではなく、B2B/SaaSで勝つための15年間通用してきた「旧プレイブック」だ。

旧プレイブック(2010〜2024、RIP)

要素 内容
カテゴリーロック ARR $20Mを最初に超えた1〜2社がカテゴリーを独占。競合が入り込む余地なし
規模拡大手法 大規模な営業・マーケ投資で$100M ARRへ。200人のセールスチーム、$50〜120Mのバーン、4〜5年の道のり
製品更新ペース 四半期に1度のリリース(実態はバグ修正)。真のプラットフォーム進化は5年に1度
NRR エンタープライズ130%+。SMB 110%+。CSMの定期訪問とアップセルで機械的に複利
顧客維持 「幸福な更新」ではなく「惰性による更新」。切り替えコストが離脱コストを上回るから残る

新しい現実

1. プロトタイプ開発コストの崩壊
1人の創業者がClaudeやCursorを使い、週末に10人エンジニアチームが四半期かけて作るものを構築できる。著者自身が10本以上のプロダクションアプリを「バイブコーディング」で作成、数十万回利用された。

2. 新規参入者がアーキテクチャ的に優位
新参企業はエージェントファーストで設計されている。2015年のコードベースにAIを後付けするのではなく、実際に仕事を「こなす」エージェントを中心に一から構築。競合の製品が「仕事を手伝う」のではなく「仕事をやってしまう」なら、既存ベンダーの漸進的なAI機能追加は意味を持たない。

3. 予算独占の加速
AI時代のアウトライヤーは$100M ARRを12ヶ月で達成するケースが出ている(例:ElevenLabs、Series D $500M/$11B評価)。これは単なるシェア獲得ではなく、予算そのものを独占する現象。CFOが重点投資したい先に流れたドルは、既存ベンダーの更新に回らない。

4. 開発速度の非対称化
旧来の年次プラットフォームアップデートが時代遅れになった。AI-nativeな企業は週次で本物の機能改善を出し続ける。この格差は四半期ごとに拡大している。

5. 既存ベンダーへの顧客の不満
2022年以降、主要SaaSベンダーの多くが累計15〜30%の価格値上げを断行。好景気時は受け入れられたが、今は怒りに変わっている。AI-nativeな代替品が「低価格+高機能」で現れており、「惰性」だった顧客忠誠心が崩壊しやすい状況。

6. NRRの「自動拡張」が終わる
「意味のある製品変化なく2年が過ぎたのに、なぜ追加シートを買うのか」「AIで同じ機能を10倍うまくやる新ベンダーがあるのに、なぜモジュールを追加するのか」という問いが現場で起きている。

2026年以降の勝者像


論評

この記事は「SaaSの死」という煽り論調への反論でありながら、同時に既存プレイヤーへの厳しい診断書でもある。著者の主張の核心は「製品の停滞をスイッチングコストでカバーするモデルが終わった」という点だ。

注目すべきは、これが単なる競争環境の変化ではなく、開発速度の非対称化という構造的な変化として描かれている点。週次でリリースできる小チームと、年次でリリースする大組織では、時間とともに機能格差が指数関数的に広がる。既存ベンダーが仮にAIを後付けしても、アーキテクチャの制約から「仕事を手伝うAI」止まりで「仕事をするAI」には届かないという指摘は鋭い。

2022〜2024年の価格値上げが「惰性の顧客」を「怒れる顧客」に変えたという観察も重要。不満はあっても代替品がなければ離脱しない。しかし今は代替品が週単位で登場する。この構造変化を捉えた良質な業界分析。


タグ: #SaaS #B2B #スタートアップ #AIネイティブ #プロダクト戦略 #SaaStr