原題: Introducing the Think Different Campaign (Apple Internal Tape)
著者: Steve Jobs, Lee Clow (TBWA\Chiat\Day)
公開日: 1997年9月23日(内部上映)、Internet Archiveへの公開日不明
ソースURL: archive.org/details/introducing-campaign-to-apple-internal
アーカイブ日: 2026-03-13
1997年9月23日、スティーブ・ジョブズがAppleに復帰して約8〜10週後、全世界のApple社員向けに送られた内部ビデオテープ。Think Differentキャンペーンの発表、広告代理店TBWA\Chiat\Dayのリー・クロウによる戦略説明、そしてiMac・PowerBook G3・Pentium IIへの反撃広告が収録されている。このテープはInternet Archiveに保存されており、全文トランスクリプトが公開されている。
ジョブズは復帰後の方針を三本柱で説明した。
製品の絞り込み:
「製品ロードマップを見たが、意味をなさないものが多すぎる。フォーカスが足りない。だから70%を削除した。」
数週間かけて製品ラインを理解しようとしたが自分でも把握できなかった、顧客も同様だったと述べ、「製品ラインはシンプルになり、より良くなる」と宣言した。残った30%の「宝石」に集中し、新たな方向性も加えることで、エンジニアチームは「プロジェクトをキャンセルされた人たちさえも3フィート地面から浮いていた」と表現するほど興奮していたという。
在庫と流通の改革: 当時、製造サプライヤーのパイプラインに2〜3ヶ月分、流通チャネルにも同等の在庫があった。つまり4〜6ヶ月先の需要を予測しなければならない構造になっていた。
「アインシュタインでもそれはできない。だからパイプラインから在庫を取り出し、顧客が何を欲しいかを教えてくれるようにして、超高速で応答できる体制にする。」
これは後のAppleの在庫管理革命(Dellモデルに学んだサプライチェーン改革)の布石だった。
スピーチの核心部分。ジョブズはNikeを最高の事例として挙げる。
「Nikeはコモディティ(靴)を売っている。それなのにNikeと聞いたとき、あなたは靴会社とは違う何かを感じる。彼らの広告では製品を一切語らない。エアソールがリーボックより優れているとも言わない。彼らは偉大なアスリートを讃え、偉大な競技を讃える。それが彼らの何者であるかだ。」
牛乳業界の「Got Milk」も引用。製品の不在を焦点にしながら購買意欲を上げたキャンペーンとして評価した。
Appleの本質的な価値観として:
「Appleの中核となる価値観は、情熱を持った人々が世界をより良く変えることができると信じること。世界を変えられると思うほどクレイジーな人たちが、実際に変えてきた。」
そしてこう続けた。「私たちは人々が仕事をこなすためのボックスを作っているのではない(それも得意だが)。Appleはそれ以上の何かだ。」
Chiat/Dayを雇い、8週間かけて作ったキャンペーン。テーマは「Think Different」。
「このキャンペーンは、世界を変えてきた人々を讃える。中にはすでに亡くなった人もいるが、彼らがもしコンピューターを使ったとしたら、Macを使っていたはずだ。」
ジョブズが特に強調したのは、広告に登場する人物(マハトマ・ガンジー、ジョン・レノン、マーサ・グラハム、アルフレッド・ヒッチコック、モハメド・アリ、ローザ・パークス等)の許可を得る過程だった。
「これらの人物の多くは、広告に出たことがなく、これからも出ることはなかった。それがこんなに感動的な形でAppleに協力してくれた。地球上でこれができる会社は他にないと思う。」
ヨーコ・オノからジョン・レノンの使用許可を数日前に得たと語り、亡きパートナーや親族がAppleに対してそこまで強い思いを持っていることを「非常に感動的な経験だった」と述べた。
キャンペーンのコピー(リチャード・ドレイファス朗読):
Here’s to the crazy ones, the misfits, the rebels, the troublemakers, the round pegs in the square holes, the ones who see things differently. They’re not fond of rules, and they have no respect for the status quo. You can quote them, disagree with them, glorify or vilify them, but the only thing you can’t do is ignore them. Because they change things. They push the human race forward. And while some may see them as the crazy ones, we see genius. Because the people who are crazy enough to think they can change the world are the ones who do.
ジョブズの後、クリエイティブディレクターのリー・クロウが世界各国のTBWAオフィス向けにブランド戦略を説明した。
Appleが置かれた文脈の分析:
PCとWindowsの普及により、コンピューターは「美化されたタイプライター・加算機・情報システム」になりつつある。一方でMacintoshは当初から「考え、創造し、想像するためのツール」として設計されてきた。ジョブズが語った「自転車 for your mind」という比喩を引用しながら、それがAppleの原点だと述べた。
ターゲット設定「クリエイティブな人々のためのツール」:
「グラフィックデザイナー、映像作家、エディター、ウェブデザイナー、ビデオゲームデザイナー、そしてビジネスでプレゼンを作るクリエイティブな人たちは、Macを本当に信じている。」
「誰だってただのワーカーよりクリエイティブな思考者として見られたい」という人間心理を突き、これは「小さなニッチ」ではなく「巨大なニッチ」になりうると主張した。
地域差への言及:
それぞれの地域でブランドの現状を評価した上で、Think Differentの理念は「世界のどこでも、その地域の最もクリエイティブな思考者を讃えることで、一貫したブランドアイデンティティを作れる」と説いた。
このテープが持つ価値は、Think Differentキャンペーンの「完成品」を見るだけでは得られないものだ。ジョブズがなぜあのキャンペーンを作ったか、何を思っていたか、どのロジックでAppleの価値観を定義したか——それを本人の言葉で聞くことができる一次資料である。
「マーケティングとは価値観のことだ」というジョブズの定義は、今でも通用するどころか、情報過多の現代でむしろより切実になっている。製品スペックの比較で勝負する時代が終わり、「何を信じているか」がブランドの核になる——この洞察は1997年に語られ、30年近く経った今も有効だ。
リー・クロウのパートは、「ブランドポジショニングとはどう考えるか」を実演している。製品の機能から出発せず、「どんな人々のためのブランドか」を先に定義し、その人々を讃えることで間接的にブランドを表現する——この発想の順序が学べる。
また、ジョブズが許可取りの話をしながら「地球上でこれができる会社は他にない」と述べた瞬間、彼が単なる広告を越えた何かを感じていたことが伝わってくる。それは「Appleというブランドの磁力」への確信であり、復帰直後のジョブズがすでに会社の再生に確信を持っていたことの証左でもある。
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