原題: Helium Is Hard to Replace
著者: Brian Potter
公開日: 2026-04-09
ソースURL: https://www.construction-physics.com/p/helium-is-hard-to-replace
アーカイブ日: 2026-04-11
イラン戦争とホルムズ海峡の封鎖により、世界のヘリウム供給の約3分の1を担うカタールからの輸送が途絶え、ヘリウム価格が急騰している。米国の戦略的ヘリウム備蓄も2024年に売却済みである。
ヘリウムは天然ガス採掘の副産物として得られ、ウランやトリウムの放射性崩壊で数百万年かけて地下に蓄積された有限資源である。米国とカタールで世界供給の約3分の2を占め、残りをロシア、アルジェリア、カナダ、中国、ポーランドが担う。
ヘリウムの最大の特性は、全元素中最低の沸点、4.2ケルビンを持つことである。大気圧下では絶対零度まで液体を保つ唯一の元素であり、極低温冷却において実質的に代替不可能である。加えて、軽量性、化学的不活性、高い熱伝導率といった性質も併せ持つ。
世界の年間使用量は約1億8000万立方メートルで、窒素や天然ガスに比べれば微量だが、用途の多くが重要である。記事はその代表例を順にたどる。MRIでは米国消費の17%を占め、ニオブチタン磁石の超伝導転移温度9.2Kを維持するには液体ヘリウムが不可欠である。初期のMRIは毎時0.4リットルほど蒸発損失があり、1000〜2000リットル級タンクの補充が必要だったが、現在はゼロボイルオフ機が増えつつある。
半導体産業は世界消費の25%を占める大口需要家であり、単結晶シリコン育成、工程冷却、容器のパージ、リーク検査、フォトリソグラフィ、真空チャンバー洗浄など多用途に使われる。記事は、EUV露光装置ではヘリウムが極端紫外線をほとんど吸収しないため代替しにくく、2035年までに半導体向け需要が5倍に増えるという見通しにも触れる。
光ファイバー製造では、コアと外側ガラス層の形成時にヘリウムで冷却しないと層間に気泡が生じるため、世界消費の5〜6%がここに使われる。航空宇宙では液体水素や液体酸素タンクのパージガスとして使われ、米国消費の7%を占める。気球や飛行船では浮揚ガスとして18%、科学研究や分析機器では大型加速器、SQUID、質量分析計などに使われ22%、溶接では遮蔽ガスとして8%、深海潜水では窒素酔い回避の混合ガスとして5%が使われる。
ただし用途によって代替可能性は異なる。溶接ではアルゴン、水素浮揚では水素など、別の選択肢がある分野もある。一方でMRI、半導体、光ファイバー、極低温研究、深海潜水のように、ヘリウムの物性そのものが要件になっている領域では代替が難しい。回収・再利用システムにより90%以上削減できる場合もあるが、削減は排除ではなく、多くの用途で実用的な置換材料は存在しないというのが記事の結論である。
本記事の価値は、ヘリウム不足を単なる時事ニュースとして扱わず、なぜこの元素が現代技術に深く埋め込まれているのかを、物性から産業用途まで一貫して説明している点にある。供給源の偏在、沸点4.2Kという極端な特性、各産業における用途の違いが一つの線で結ばれ、読者は「不足して困る」ではなく「なぜ代替できないのか」を理解できる。
さらに良いのは、用途ごとに代替可能なものと不可能なものを分けて論じていることである。溶接や浮揚のように別ガスで置き換えられる領域と、MRIやEUV露光のように物理法則の制約でヘリウムが事実上必須の領域を区別することで、資源問題を感覚ではなく構造として捉えさせる。供給の地政学リスク、需要増加、再利用技術の限界まで含めて整理されており、今後も長く参照できる基礎資料になっている。