原題: The Great Wave Has Arrived (Internal Letter from GLM CEO Jie Tang)
著者: 唐傑(Jie Tang, 智譜AI創業者・清華大学教授)
公開日: 2026年7月11日
ソースURL: Exclusive: Zhipu AI Founder Tang Jie Internal Letter – What Matters More After the “GLM Moment” (36Kr)
アーカイブ日: 2026-07-13
2026年7月11日、中国のAI企業・智譜AI(Zhipu AI)の創業者である唐傑(Jie Tang)が、社内向けレター「The Great Wave Has Arrived」を公開した。本レターは、時価総額1兆香港ドルを突破し「GLMモーメント」と呼ばれる躍進を遂げた智譜AIが、ポスト・コーディング時代に何を賭けるのかを宣言する戦略文書である。
唐傑はまず、智譜AIの方法論を「本質・反直感・集中(Essence, Counter-Intuition, Focus)」の3語に集約する。同社の歴史は反直感的選択の連続だった。2006年、1台のデスクトップPCで学術検索システムに取り組み始めたとき、誰もが「そんなものに何の意味があるのか」と言った。2021〜2022年、「機械を人間のように考えさせる」という目標が狂気の沙汰と見なされていた時期に、千億パラメータモデルGLM-130Bの開発にリソースを振り向けた。ChatGPTが世界を席巻する1年半前のことだ。そして2026年1月8日の香港上場当日、鐘を鳴らす代わりに「ゼロリセット」を宣言し、基礎モデル研究へと回帰した。唐傑はこれを「ポーズではない。AGIが最終目的地である以上、短期的利益や業界トレンドは道中の風景に過ぎないという信念だ」と述べる。
レターの中核をなすのは、知能の上限が塗り替えられつつあるという認識である。唐傑は「真の商業機会は製品やビジネスモデルの微調整にあるのではない。知能の上限そのものの跳躍にある」と断言する。そしてAGIを独自に定義する。「AGIとは単独の天才の知恵ではない。全人類の知恵の総和である。相対性理論レベルのオリジナルな知識を創造する能力──これこそが、我々が真に頂点に達したかを測る唯一の基準だ」。
この目的地に至るまでに越えるべき3つの峰を、唐傑は次のように描く。
第一の峰:Long Horizon Task Capability(長期的タスク実行能力)。モデルが即時のQ&Aではなく、数週間・数ヶ月・数年におよぶタスクの計画と実行を学習すること。ソフトウェアの脆弱性を疲れ知らずで探し続けるモデルは、トップ・セキュリティ専門家の思考法を学び、それを機械の持久力で増幅する。
第二の峰:Autonomous Agent System(自律エージェントシステム)。自己起動・協調・24時間365日稼働するエージェント群が新たな生産力の形態となる。かつて構想された「One-Person Company(OPC)」を超え、「Fully Automated Company(NPC)」へと向かう。長文脈・RAGによるMemoryの萌芽、モデル反復頻度の高速化によるContinual Learning、そして自己判断(Self-Judge)の最初の兆候──かつてパラダイムシフトが必要と思われた3つの難題が、技術と応用の両輪で解けつつある。
第三の峰:Self-Evolving(自己進化)。最も困難で、最も魅惑的な峰。モデルが自らのコードを書き、データを清掃・合成し、自らを訓練する。これは計算資源を消費するが、人間の労働力と時間という最も貴重な資源を節約する。「海外の先行企業が100万〜200万チップ規模の計算クラスタを構築し始めたとき、その真の用途はモデルに自らを訓練させることである可能性が極めて高い」と唐傑は指摘する。
これら3つの峰を越えた先には、AIが「私」とは何か、自己意識とは何かを学び始め、感情に触れ、意識そのものに到達するという展望が開ける。知覚から認知へ、認知から汎用知能へ、汎用知能から人工超知能(ASI)へ──「大波は来た。不可逆である」。
ここで唐傑はGoogle DeepMindの「From AGI to ASI」レポートに言及し、単一モデルの能力が人間レベルに留まっても、計算資源の増大だけで超知能が「絞り出される」可能性を引く。AGIインスタンスが毎年10倍で増加すれば、5年後には1億体に達し、思考効率100倍・経験のゼロコスト複製を備えた同一基盤のエージェント群は、集団としてASIに相当するという議論だ。
この認識に基づき、唐傑は業界が商業化を加速する中で「あえて上方突破する」という反直感的戦略を宣言する。名付けて「Touch High Plan(触高計画)」。向こう2年間で戦略的投資を行い、短期的なアプリケーション収益化ではなく、AGIの次なる高地を直接狙う。投資対象は4つのコアエンジンである。(1) 長期的タスク──壮大な目標(「新しい抗がん剤分子を設計せよ」)を数千のサブタスクに自律分解する能力。(2) 自律エージェントシステム──数千の専門「人格」と「スキル」を持つエージェント社会の構築。(3) Fully Self Training──高品質な合成データ工場とAI対AIのSelf-Playによる知識の「無からの創造」。(4) 極限の安全ガバナンス──人間の倫理・社会規範・国家法規をモデルの価値関数に公理として書き込み、数百億の資源を投じて「機械的解釈可能性」に取り組み、ブラックボックスから透明で解釈可能なシステムへの転換を図る。
唐傑はオープン戦略についても明確な立場を示す。直近リリースされたGLM-5.2は実用的な100万トークンのコンテキストウィンドウを持ち、MITライセンスで完全オープンソース化される。「最先端の知能は一部の者の所有物であってはならない。オープンで、使え、構築でき、すべての開発者に奉仕するものであるべきだ」と述べ、技術的開放が真の安全性をもたらすという信念を表明する。
レターは力強い宣言で締めくくられる。「頂点に達しなければ失敗である。今回我々が触れる高みは、全人類のものだ」。
本レターの第一の価値は、中国AI産業の最前線に立つ経営者が、AGIへの到達経路を具体的かつ野心的に言語化した一次資料である点だ。「全人類の知恵の総和」としてのAGI、「相対性理論レベルの知識創造」を唯一の判定基準とする定義は、OpenAIやDeepMindのそれと並べて読むことで、異なる文明圏のAIリーダーたちが共有する地平と分岐点を浮かび上がらせる。
特筆すべきは、上場からわずか半年で「ゼロリセット」を宣言し、商業化ではなく基礎研究への回帰を選んだ経営判断である。アナリストが決算説明会でARR(年間経常収益)の伸びを問う中でのこの宣言は、AI企業の時価総額と研究投資のジレンマを体現している。Anthropicがコーディング特化で収益化に成功したのと同じ道を歩みつつ、「コードの次」に賭けるという二段構えの戦略は、長期的なAI競争における中国企業のポジショニングを示唆する。
3つの峰(Long Horizon → Autonomous Agent → Self-Evolving)のフレームワークは、それ自体がAGIロードマップとしての説得力を持つ。特に「Self-Evolving」を最終峰に据え、計算資源のスケーリングがモデルの自己訓練に使われる未来を描く視点は、Google DeepMindのレポートと響き合いながら、より経営者の実感に根ざした切迫感を帯びている。同時に、「安全ガバナンス」を4つ目のエンジンとして独立させ、解釈可能性への巨額投資を約束する姿勢は、西側のAI安全論とは異なる文脈──「国家戦略への奉仕」という枠組みの中でではあるが──意思表明として注目に値する。
長期参照価値の観点からは、2026年半ばという時点での中国AI企業トップの「生の声」として、またGLM-5.2のオープンソース化とTouch High Planが実際にどのような成果を生むかの検証基点として、5年後に必ず読み返される文書になるだろう。
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