原題: Tech note: making your own V-I plots at home
著者: Michał Zalewski (lcamtuf)
公開日: 2026-07-17
ソースURL: lcamtuf.substack.com
アーカイブ日: 2026-07-19
著者のMichał Zalewskiは、執筆中の書籍『The Secret Life of Circuits』のために約290点の図版を用意した。そのすべてを実測データに基づかせるという、一見当然に思えて実は異例のこだわりを持ってのことだ。著者が問題視するのは、一般的な電子工学の教科書やオンラインチュートリアルに掲載されているV-I特性図(電圧と電流の関係を示すグラフ)のほとんどが「フェイク」だという事実である。よくて古い教科書からトレースし直したもの、悪ければ記憶を頼りに描かれた「実話に着想を得た」程度の模式図にすぎない。
半導体素子のV-I特性を実際に測定するのは、想像以上に難しい。第一に、曲線の一部の領域では電流が微小すぎて、最も一般的な測定器であるオシロスコープでは記録できない。第二に、別の領域では電流が急激に増大し、気づけば素子から「魔法の煙」が上がっている。第三に、その中間領域ですら安穏としていられない。半導体接合の特性は温度によって変化し、わずか1mAの電流による自己発熱でも測定点がオシロスコープの画面上をゆっくりとドリフトしていくのだ。
この問題に対処するため、著者はオシロスコープを諦め、ベンチトップ型マルチメーター(DMM)とラボ用電源からのパルス電力を組み合わせる手法を採用した。マルチメーターの利点はマイクロアンペアやマイクロボルトのレベルまで容易に測定できること、パルス電力の利点は加熱によるドリフトを抑制できることにある。さらに、測定対象の素子を非導電性の液体に浸して冷却する。鉱物油(ミネラルオイル)が無難な選択だが、他の選択肢も多く存在する。
記録の自動化については、多くのベンチトップ計測器がSCPI(Standard Commands for Programmable Instruments)と呼ばれるシンプルなテキストベースのプロトコルに対応している。計測器の世代に応じて、インターフェースはRS-232、USB Type B(プリンター用ポート)、またはEthernet経由で利用できる。Ethernetの場合は単にポート5025へのTCP接続を確立すればよい。SCPIプロトコルはコマンドとクエリで構成され、たとえば *IDN? に続けて改行を送ると計測器のメーカーやモデルなどの識別情報が返ってくる。MEAS:VOLT? は現在の電圧値を返すクエリであり、SOUR:VOLT 1.2 は電圧を1.2Vに設定するコマンドだ。
しかし著者の持っていたマルチメーターはSCPI対応だったものの、ベンチトップ電源には遠隔制御機能がなかった。業を煮やした著者は、最終的にソースメジャーユニット(SMU)——電源とマルチメーターを高速応答で組み合わせた装置——を購入する。新品のSMUは法外に高いが、中古市場には買い手がほとんどいないため、値引き交渉をすればeBayで驚くほど安く手に入る。著者は希望小売価格9,000ドルのRohde & Schwarz NGU401を、笑ってしまうほどわずかな金額で手に入れた。
このSMUは電圧を設定してから画面上の電流値を照会するという手順でも使えるが、読み取り更新頻度は約3Hzにすぎない。より優れた方法は、機器のデータストリーミングモードを使うことだ。Rohde & Schwarzの用語ではFastLogと呼ばれ、APIは毎秒100〜500kサンプルのサンプリングレートを許容し、電圧-電流のペアをバイナリの4バイト浮動小数点数として送信する。ただし、こうしたニッチな機能の常として「ドキュメント通りには何ひとつ動かない」。最も深刻な問題は、シリアル-over-USBインターフェースを使うと返ってくるバイナリデータが破損することだった。半日かけて原因を追った末、著者はEthernet経由でようやく動作させることに成功する。
著者のC言語による実装は、10 kspsでFastLogを使用する。0.3mA以下の低電流領域では電源電圧をかけっぱなしにして2,500データポイントを平均化し、ノイズフリーのマイクロアンペア級読み取り値を得る。より高い電流では電源を5ミリ秒オンにし、FastLogバッファから最も良い20サンプルを選んで平均する。
この手法で取得された、連続定格300mAの人気ダイオード1N4148の順方向V-I曲線は、数マイクロアンペアから2A近くまでの範囲を苦もなくカバーしている。注目すべきは、ダイオードにおける印加電圧と電流の関係は指数関数的とよく言われるが、それが成り立つのはごく控えめな電流領域に限られるという点だ。対数電流プロットを見ると、この性質は10mA付近でもはや成立せず、曲線は初期の真に指数関数的な傾きにフィットさせた理想化モデル(破線)から乖離していく。これは半導体基板における抵抗性効果によるものであり、実測プロットを持つことの価値を示す多くの理由のひとつである。
同様のアプローチはトランジスタにも使える。小型MOSFETであるBS170のドレイン-ソース間電圧に対する流入電流のプロットは、このトランジスタが通常の動作範囲の大部分においておおむね定電流デバイスであることを示している。電流制限はゲート-ソース間電圧(VGS)によって設定され、VDSが1〜10Vの範囲では変動が10%未満だ。
さらに興味深いのは、ブレークダウン領域である。BS170のスペックシートは降伏電圧を60Vとし、教科書では通常これが垂直への急峻な遷移として描かれる。しかし現実はより微妙だ。ゲート電圧がごく低い場合にのみ比較的急峻でスペック通りの降伏が起こり、より実用的なVGSでは危険領域への立ち上がりはより緩やかで、60Vよりかなり手前からトラブルが始まる。
このブレークダウン領域のプロットにはさらに工夫が必要だった。SMUの電圧上限は20Vのため、著者はSMUと直列に従来型のフローティング電源を追加し、複数の電圧スパンでの測定をつなぎ合わせた。しかしこれにより別の問題が生じた。SMUがアイドル状態でも測定対象にかなりのドレイン-ソース間電圧がかかり、VGSの値によってはトランジスタが加熱あるいは破壊される可能性があるのだ。著者は固定VGS信号から、信号発生器による低デューティ比の5ミリ秒パルスに切り替え、データログコードも約2.5秒間にわたって連続サンプリングし最良の結果を平均してから次の電圧設定点に移るよう修正した。
全体を通じて、この記事は単なるテクニカルノートを超え、電子工学教育の根底にある前提——教科書の図は実測である——を静かに問い直す記録となっている。著者のように実測にこだわると、半導体の振る舞いがいかに教科書の理想化から逸脱しているかが如実に浮かび上がるのだ。
本記事の最大の価値は、電子工学の教育と実践のあいだにある見過ごされがちな断絶を、具体的な実験手法とともに提示している点にある。「教科書のV-I特性図はほとんどがフェイクである」という冒頭の指摘は、回路設計に携わる者であれば誰しも薄々感じていたかもしれないが、ここまで明示的に検証し、代替手法まで示した例は稀だ。
著者のアプローチは、高価な専用装置に頼るのではなく、ベンチトップDMM、パルス電源、鉱物油冷却、SCPI自動化という組合せで問題を解決している点が実践的である。最終的にSMUを導入するものの、そこに至るまでの漸進的な試行錯誤(「ドキュメント通りには何ひとつ動かない」というSCPI実装の悲哀を含めて)には、計測器を実際に使いこなすための貴重な知見が詰まっている。とりわけFastLogのバイナリデータ破損問題をEthernet経由で回避したエピソードや、SMUの20V上限をフローティング電源の直列接続で突破する工夫は、研究室の現場でしか得られない種類の知識である。
長期的な参照価値という点では、本記事で示された測定手法——パルス測定による自己発熱の抑制、微小電流領域での長時間平均化、高速サンプリングとベストサンプル選択——は特定の機種や時代に依存しない普遍的な技術である。5年後、10年後に誰かが「本物のV-I特性を測りたい」と思ったとき、この記事は信頼できる出発点であり続けるだろう。また、1N4148ダイオードの指数特性が10mA付近で崩れることや、BS170のブレークダウンがVGSに依存して緩やかになることなど、実測ならではの発見は、半導体物理学の教科書的理解を補完する一次資料としての価値を持つ。
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