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応用AIは機能しない

原題: Applied AI Doesn’t Work
著者: vas
公開日: 2026-09-04
ソースURL: 元記事
アーカイブ日: 2026-09-08


要約

著者はAI導入支援企業Varick Agentsのcheif executive officerであり、世界最大級の企業のCEO、CIO、CFOと300人以上対話してきたと述べる。そこから得た結論は単純で、ほとんどの企業は「ゴミのようなプロセス」の上にAIを乗せ、ゴミを速く作っているだけだというものである。数千席のClaude Codeライセンス購入、年間5,000万ドルのトークン支出、Zoomで開かれるAI研修のいずれも、著者の見るところ非効率な導入の典型例だった。ただし著者は、この道を私たちはすでに何度も歩いており、歴史から学べるはずだと主張する。

第1部は歴史との並行関係を扱う。1990年、元MITの計算機科学教授Michael HammerはHarvard Business Reviewに論文を書いた。彼は膨大な資金を計算機に投じながら投資対効果をほとんど得られない企業を長年観察し、その理由をいち早く突き止めた一人だった。引用されるのは次の一節である。「情報技術への多額の投資は失望すべき結果しか生んでいない。企業が技術を旧来のやり方を機械化するために使う傾向があるからだ。既存のプロセスをそのまま残し、計算機で単に速くしているにすぎない」。著者は、この文の「情報技術」を「AI」に置き換えれば明日そのまま掲載できると述べ、同じ論文にある「牛道を舗装するのはやめよう」という言葉を、36年後の今も私たちが続けている行為として示す。牛道の舗装とは、あるべき姿に再設計せず、既存の非効率なプロセスを自動化し固定化することを指す。

規模感を示す数字も並ぶ。AIの設備投資には1兆ドル以上が投じられ、Microsoft、Alphabet、Amazon、Metaの4社だけで2025年に4,100億ドルを支出した一方、企業が実際にAIを使うために支出したのは370億ドルにとどまるという。その実態を示す例として、英国のビジネス貿易省が公開したMicrosoft 365 Copilotの試行結果が引かれる。3か月で1,000ライセンスを配布したところ、1ユーザー1日あたりのCopilot操作は平均1.14回にすぎなかった。PowerPointの作成は18分から11分へ7分速くなったが品質スコアは半減し、Excelの分析はむしろ遅く、しかも品質が下がった。メールの時間短縮は「きわめて小さい」とされ、同省の結論は「時間短縮が生産性向上につながるという確かな証拠は見つからなかった」だった。それでも利用者の72%は満足または非常に満足と答えていた。著者はこれをまとめて、人々は気に入ったが以前とまったく同じものを作り続けていた、と評し、Wharton校のEthan Mollickの言葉「個人の成果を高めるAI利用は、自然には組織の成果向上に変換されない」を添える。

なぜこれが繰り返されるのか。著者は愚かさもあるが大半は慣性と設計の問題だと言う。今日AIの契約書に署名する人物はツールとベンダー選定は握っていても、プロセスを所有していない。財務部門に乗り込んで「14ステップの手続きは本来5ステップで済む」と言える権限を持つ者がその連鎖のどこにもいないため、誰もそうしない。代わりに今あるものに「AIを適用」し、速いクソが出来上がる。著者は「適用する」という語自体を疑う。塗料は適用するものだが、塗料は下地を直さない。「応用クラウド」や「応用デジタル」とは誰も言わず、デジタルトランスフォーメーションやクラウドモダナイゼーションと呼ばれたのは、それらが変革であり技術はその一部にすぎないと皆が理解していたからだ。AIも同じ形をとるはずだと著者は述べる。

Hammerの最良の数字として紹介されるのが、ある保険会社の申請処理である。申請が社内を通過するのに22日かかったが、そのうち誰かが実際に作業していた時間は合計17分だった。ここに世界最高のモデルを投入して各工程を2倍速くしても、節約されるのは8分半である。担当者はそれを50%の時間短縮と報告して昇進するかもしれないが、実態は8分だ。節約の余地は作業ではなく、待ち行列と引き継ぎ、他チームの応答待ち、二度目のレビューにあった。著者はこれが90年代の遺物ではないことを、自社が関わった企業のシステムログで裏づける。新規顧客案件の開設は実作業25分だったが、入力から有効化までの経過時間は2日から2週間に及んだ。作業は分単位でも、プロセスは週単位でありうる。

「大企業なのだから何かは正しくやっている、変える必要はない」という反論に対して、著者はAIがデジタルやクラウドと異なる一点を挙げる。正しく使えばAIは競合に、これまでにない梃子を与える。コストで下回る、処理人員なしに無限に拡大する、リード一覧を作る前に世界中へ営業する、といった形である。最良のケースでも成長に伴って人員が指数的に増える。3人のアナリストが6人になれば管理者が要り、2チームになれば以前は存在しなかった引き継ぎが生まれ、その引き継ぎに進捗会議とPMが必要になる。人員グラフが上に曲がる一方で従業員一人あたり売上が伸びないのはこのためだと著者は言う。

第2部は今日何をすべきかを述べる。データは散らかり、システム同士は会話しないので、まず統合してからAIという発想が浮かぶ。単一のERP、CRM、データ基盤を整えてからその上にAIを載せるという計画だ。著者はこれを実際の費用で否定する。TSBはコアバンキング移行に3億1,800万ポンドを投じ、さらに約2億ポンドの事故対応費を負い、2022年12月にFCAとPRAから4,865万ポンドの罰金を科され、520万人の顧客の銀行取引を止めた。売上80億ドルの製造業Zimmer Biometは、移行と統合の失敗で出荷、請求、売上報告といった基本機能が行えなくなり、2025年9月にDeloitteへ1億7,200万ドルの請求を提起した。著者によれば報道に出たのはこの2件だけで、同種の事故はもっと多い。

代わりに固めるべきはプロセスだという。20年間で9社を買収していれば、同じ業務が9つの子会社で9通りに走っている。その上にAIを適用しようとすれば同じエージェントを9通りに作り、永遠に9組を保守する煉獄に落ちる。だから先に全社で走る単一のプロセスを定義し、それを展開してからAIを考える。逆に単一のERPは不要だと著者は言う。決定論的な連携は2つのシステムがベンダーレコードの定義で食い違った瞬間に壊れたが、エージェントはこの不整合を許容できる。したがって既存システムの上に横断的なオーケストレーション層を置くことが解であり、システム同士は会話するだけでなく、互いの欠点を許し合う「幸せな結婚」の状態にする必要がある。

マッピングの出発点は部門単位である。単一のワークフローを8週間かけて磨いても、上流の姉妹プロセスに律速されて成果が0になることがあるし、逆に事業全体を一度に飲み込むこともできない。部門を起点にすれば、財務ならAP、AR、FP&A、請求、銀行、照合といった同じ部門に流れ込むワークフローの束が見える。そこで記録すべき7項目が挙げられる。理想的な場合に何が起きるかというハッピーパス。ハッピーパスから外れる例外について、その割合、行き先、巻き込まれる人、処理時間、誤りの費用。上流と下流との相互作用、とくに遅延や失敗時のもの。関与する記録システムと、食い違ったときどれが勝つか。地域、法人、子会社、買収経路による差異。各工程での接触時間と経過時間の差。そして各人のAI適性と将来のAIシステムに対して持つべき所有権の度合いである。これを引き出す手続きは2つあり、記録システムに対するプロセスマイニングで操作、タイムスタンプ、処理量、修正、文書と一致しない現実を収集すること、そして運用担当者への聞き取りである。組織の現実は同じ仕事を何年も続けてきた10人から20人の頭の中にあり、最終的にAIを採用するのもその人々だ。片方だけではAI発見が失敗する最大の原因になると著者は言い、AIによる聞き取りや技術者に聞き取りを任せる近道は機能しないと述べる。仕事の半分は担当者との関係を築き、何を訊くべきかを知ることだからである。

プロセス再設計は分類作業であり、あらゆる工程は3つのバケツのいずれかに落ちる。第一は決定論的な工程で、XならばYと判断を伴わないもの。請求書が金額閾値未満で発注書と入荷記録に一致すれば支払う、開示に競合の名があれば利益相反チームへ回す、といった処理は安価で監査でき幻覚がなく速い通常のソフトウェアで書くべきである。第二はエージェント的な工程で、人間の判断とその結果が数千件記録されており、リスクが十分低いもの。ディールデスクの承認や総勘定元帳のコード付けが例で、出力がYes/No、どのチームへ回すか、フラグを立てるか、一致するかといった形なら、エージェントで出荷して全出力を計測する。逆に出力が人間が全文を読んで検証しなければならない5ページの文書なら、混成の方がよい。判断すべきは思考の難しさではなく行為の難しさだと著者は言う。第三は人間参加型で、リスクが高すぎるか履歴が足りない工程である。ここでは判断の瞬間に関連する証拠をすべて人間の前に置く。エージェントが請求書と発注書の不一致を検出し、承認、却下、フィードバックを付けて別の人へ回す、の3択を提示すれば、メールや請求記録を漁る40分が30秒の判断に変わり、それでも最終行為は人間が握る。この分類を終えれば、25ステップのプロセスは前後に決定論的な工程を持つ3つのエージェントと2か所の人間の判断点に変わり、投資対効果はすべてここに宿る。

構築前にはKPIの基準値を取り、数字が今どこでどう測られているかを把握する。12か月後に「以前はXだったが今は3倍、10倍、100倍だ」と言えなければ成功とは呼べない。優先順位は、処理量が最も多いワークフローではなく、引き継ぎが最も多いワークフローから着手する。

具体例として、毎月300以上の銀行口座を照合する国際企業の再設計が示される。3分の2はオフショアチームが担い、残りは2地域で3種類の形式に分かれ、すべてExcelだった。未処理の照合項目は12,000件を超え、月初の4日間は明細の取得に費やされ、照合は毎月ほぼ1か月かかっていた。旧工程は、各銀行から明細を催促して集め、地域の作業簿に正規化し、元帳を抽出し、行ごとに突合し、不一致に印を付け、現地の管理者へ文脈を問うメールを送り、返信を待ち、返信がなければ催促し、ようやく返信を得て修正を計上し、地域分を連結ファイルに統合し、これを他の2地域でも繰り返して締める、という流れだった。各工程を速くしても突合が速くなるだけで、問題は突合ではなかった。明細を待つ4日、別のタイムゾーンの管理者への問い合わせと3日かかる返信こそが、週単位の時間を食っていた。再設計後は3工程になった。明細はベルトコンベアのようにフィードで届き、これはAIとまったく関係がない。規則で突合できるものは自動で突合し、できないものはエージェントが項目、過去の分類、各記録システムから集めた証拠、提案する次の一手を揃えて案件を組み立てる。最後に人間が準備済みの証拠を見ながら例外の待ち行列を処理する。催促、メール、待機、再入力、地域統合は完全に消えた。これが分や時間を節約するエージェントと週を節約するエージェントの差だと著者は言う。

第3部はなぜこれが普及しないかを扱う。第一に、AIの売り文句は最初から誤解を招いていた。点的な解決策としてのAIから価値は生まれず、ITだけでも、予算100万ドルで権限0の「イノベーション部門」からもできない。4部門にまたがるプロセスの再設計には、4部門すべてにプロセスが変わると告げられる人物が要り、それは経営の頂点からしか来ない。同時に買掛金部門の責任者や財務の分析担当など、現場で仕事をしている人々も含めなければならない。彼らが新しいシステムを望み、明日それを推進し、自分を置き換えかねないと感じる情報を打ち明ける必要がある。しかもAI導入はリスクとみなされる。AIが成功しても昇進はなく、失敗すれば解雇されるなら、会社がゆっくり死ぬとしても現状維持が安全になる。

第二に、再設計はそもそも難しい。HammerとChampyの1993年の推定では、プロセス再設計を試みた組織の50%から70%が意図した成果を得られなかった。Hammer自身は後に「人間的側面への配慮が不十分だった」と述べた。当時は引き継ぎの除去がその担当者の解雇を意味し、残る人に働き方の変更を求めながら、当時のソフトウェアはその変更を支えなかった。コンサルタントが去ると組織とプロセスは元に戻った。だが今は2点が根本的に異なると著者は言う。AIネイティブなツールは周囲の変化に適応する流動的なソフトウェア状態を与え、記録システムに常駐するエージェントは人に依存していた引き継ぎを実行しつつ周囲の不整合を処理し、人間に特有のばらつきもない。そして最初に消す仕事は催促、待機、エスカレーション、トリアージといった調整作業がほとんどで、残るのは高い判断力と梃子の効く仕事だけになる。

著者は従来型コンサルティングの限界も述べる。10か国3法人にまたがる15ステップのプロセスを30万ドルで美しいスライドにすることはできるが、モデルに何を任せられるか、月に4万回走るエージェントの費用、総勘定元帳コード付けとディールデスク経路指定のどちらにどのモデルを使うか、評価スイートの設計、各工程が3バケツのどれに属するかは判断できない。逆にForward Deployed Engineerと呼ばれる人々の多くは凡庸な技術者かつ凡庸なコンサルタントでAI能力を欠くという。必要なのは財務や営業などの機能を実際に運営した人、DynamicsやSalesforceに本番品質のソフトウェアを出荷できる技術者、統制と評価スイートを備えたモデル非依存のハーネスを作れるAI技術者が同じ部屋にいる状態である。

成果は費用、売上、時間、リスクの4つの梃子で報告される。著者の主張によれば、月次決算は18日から22日が7日から9日になり、サプライチェーンの混乱は数日から6時間未満で選別されるようになった。商談の滞留は平均23日から6日になり、営業担当の事務時間は週の38%から14%へ減った。買掛金の例外処理は月600件から800件が50件未満になり、マーケティング組織では月末にしか見えなかった配分誤りから媒体予算の8%から12%を回収した。給与の修正は照合を給与計算の前に走らせることで90%減り、従業員からの問い合わせの80%が社内の規程文書から回答され、例外は人事の人間へ回された。合計の提供価値は1億ドル超で、顧客と共同で測定した数字だと著者は述べる。記事は自社の手法紹介と相談予約、ニュースレターの案内で締めくくられる。


論評

この記事の中心にある主張は新しいものではなく、著者自身がそれを認めている。1990年のHammerの論文と1993年のHammerとChampyの再設計論を正面から引き、36年間同じ失敗が続いていると位置づける構成は、AIを巡る言説を業務プロセス再設計の歴史に接続するものとして価値がある。特に接触時間と経過時間の区別、すなわち22日の処理に17分しか作業が含まれないという例を軸に、個々の作業の高速化がなぜ組織の成果に変換されないかを説明する論理は、Mollickの指摘や英国政府のCopilot試行の数字と噛み合っており、モデルの世代が変わっても通用する。3バケツへの分類と、行為の難しさで判断するという基準、処理量ではなく引き継ぎ数で優先順位を決めるという指針も、具体的で再利用しやすい。

限界は明確である。著者はAI導入支援企業の経営者であり、記事の後半は自社の宣伝に向かう。月次決算の短縮や1億ドルという成果は顧客と共同で測定したとされるが、第三者が検証できる形では示されていない。また著者が引くHammerとChampy自身の推定、すなわち再設計の50%から70%が失敗するという数字は、今回の手法にも当てはまりうるはずだが、記事は「毎回うまくいく」と述べるにとどまり、自らの失敗例や条件の限界は語られない。単一ERPの統合を否定し、エージェントによる不整合の許容を解とする議論も、監査や整合性の要件が厳しい領域でどこまで成り立つかは示されていない。読者は方法論の骨格と、その裏にある「時間は待ち行列に消える」という観察を持ち帰り、成果の数字は著者の主張として扱うのが適切である。


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AI導入, 業務プロセス再設計, エンタープライズAI, エージェント, Human-in-the-Loop, プロセスマイニング, 組織論, 生産性